神々の崩壊
はっきり見えてきた国際政治経済の実像!
田中宇

神々の崩壊

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発行年月日:1999/2/26
サイズ:四六版上製
ページ数:236
コード: ISBN4-938939-11-8
定価:(本体1,600円+税)

こんなに鋭く、分かりやすい国際ニュース解説は初めて。目からウロコが落ちる斬新な視点!これを読めばもう新聞・TVの解説には頼れない!毎月2万人ずつ読者が増えていく日本屈指のメールマガジン『NSN(マイクロソフト・ネットワーク)ニュース&ジャーナル』発の活字化。

田中宇の国際ニュース解説HP → http://tanakanews.com/

目次

 [第1章] 神々の崩壊
 [第2章] 世界の動きをどう読むか
 [第3章] 失われた規範を回復できないロシア
 [第4章] 難所にきた中国の改革
 [第5章] 「成長神話」以後のアジア
 [第6章] アメリカによる「中東平和」という構図の崩壊
 [第7章] 科学技術という名の信仰
 [第8章] 変わりゆくアメリカの政策

本書の内容

●第2章世界の動きをどう読むか●

貧乏旅行が国際分析のきっかけだった

私が記者になったのは、大学時代に世界を「貧乏旅行」したのがきっかけだった。

1984年から85年にかけて、一年間大学を休学し、北米から中米、ヨーロッパからイラン、パキスタンまで世界一周旅行し、その後はインドや中国にも行った。このとき、世界というものは多様で、不可思議な人々や場所がたくさんあると思ったことが、世界についての理解を深めたいと思うきっかけとなった。

世界一周旅行の中で、イラン・イラク戦争真っ只中のイランを旅行したのだが、テヘランなどをうろうろして、地元の人々と少しぐらい話しても、なぜ両国が戦争しているのか、さっぱり分からなかった。欧米の週刊誌に、写真入りでいろいろ書いてあるのは見たのだが、英語の読解力が大きく不足しており、歯が立たなかった。報道機関に入れば、海外事情について理解を深めることができ、取材にも行き、書くことができる、と思った。

「世界がどう動いているか」を知りたい
1987年に共同通信社に入社し、京都と大阪で合計六年間、地方勤務をした。地方勤務が終わったら、私の入社動機からして当然のごとく、外信部に行きたかったが、外信部に行きたいという希望者は、社内で非常に多かった。私と同期入社の記者が40人近くいたが、その半分近くが入社時には外信部を希望していた(実際に行けるのは毎年3~5人程度)。

学生時代に長期の海外旅行をしたことがきっかけで、国際報道の世界に入りたいと考えたという、私と同じような同期生が、たくさんいたのである。「共同通信社といえば国際報道」というイメージだったから、それも当然だった。

自分の身近にいた先輩の中にも、どうしても外信部に行きたくて、地方でずっと待っている、という人が何人もいた。それをみて、臆病な私は、早々と外信部希望を諦めて、経済部に行くことにした。
経済部では、大阪で、イトマン事件、東洋信金事件など、いわゆるバブル崩壊とヤミ人脈の話、それから兵庫銀行や阪和銀行など、関西の金融危機を取材した。
93年からは東京に転勤し、ゼネコン汚職などを取材した。日本経済がおかしくなっていく際の、あちこちの現場に立ち会うことができ、ありがたい経験であった。
だが、どうも私の中には、「世界を取材したい」という気持ちが残った。
これはやはり、収入が激減しても、フリーランスのライターになって、外国をうろうろするしかないだろう、と思うに至る。それで、96年の春先に退社を決め、会社に通知した。
このときは、会社を辞めて台湾で日本語学校の教師になり、そこから中国世界に入り込んでいくというプランを描いていた。大学時代に旅行に行ったころから、中国は不思議な場所だと思っていた。もし中国語が自由に話せれば、中国人のように振る舞いながら大陸を回り、その不思議さを理解していけるのではないかと思ったが、大陸で自由に生活するには規制が多い。そこでまず、自由な台湾で生活して中国語を習得し、その後大陸に行って、中国情勢の専門家になりたいと思ったのである。

だがその後、一つは収入が非常に不安定になることへの恐怖が急に湧いてきたことと、短期間にそれなりの執筆者になろうとするには、あまりに世の中のことを知らない、ということにも気づいた。先輩に諭されたこともあり、もう少し大会社の名刺を使って取材した方がいいと思い直した。

送別会も終わった後に、上司に「辞めるのやめました」と伝えると、当然ながら立腹し、引き続き在籍はさせてやるが、制裁措置として「記者」の肩書きがつかない部署に行かせる、ということになった(上司本人が直接そう発言したというより、私にとってそういう趣旨だと感じられた)。
それで、96年5月に、子会社である株式会社共同通信社の「情報編集本部」というところに、配置転換となった。そこは、国際経済に関する英文記事を翻訳する部署だった。
「座敷牢」に入るとニュースの価値観が変わった。
ところが、私にとって「座敷牢」になるはずのこの部署は、私の「ニュース」に対する価値観を大きく変えてしまう場所となった。ここでは、いやでも毎日たくさんの英文記事を読まねばならない。しかも職場には、各種の英文メディアがそろっていて、それを読むことが奨励されていた。
それらを読んで分かったのは、欧米の新聞や雑誌の記事では、出来事を報道する際に、「なぜ、それが起きたのか」を伝えるということが非常に重視されている、ということだった。
出来事の背景を探ろうとする努力が、日本のマスコミより、はるかに強い。そのため、ニュースに関
する分析も、日本より圧倒的に深かった。
日本のマスコミは、「客観報道」を重視するあまり、出来事に対する分析を「主観的な行為」としてとらえ、避ける傾向が強い。独自の分析を展開しすぎると、読者や他のメディアから「偏向」と攻撃されがちになるし、マスコミにとって最大の情報源である官僚組織の人々も、歓迎しないであろう。国家を動かしている人々にとっては、マスコミが国民に分析力をつけさせて、皆が鋭く天下国家を語るようになっては困るからだ。
その結果、マスコミ各社は、明日発表されることを今日報じる、ということに全力を挙げる一方で、出来事の背景を分析することは重視しない、という体質が強くなっている。
冷戦終結によって、社会主義的な「改革」や「革命」という目標がなくなったことも、「国家を支配する側のウソを見抜いてやろう」という分析魂を失わせることにつながった。
だから今では、夜中に官僚や政治家、企業経営者などの自宅に行き、「特ダネください」とお願いして回るのが、新聞記者の最大の仕事になっている。
そんな環境の中で、10年近い記者生活を送った私にとって、「情報編集本部」で欧米メデイアの分析力に触れたことは、まさに目から鱗が落ちる経験だった。

「なぜ?」に答える欧米メディア

当初、私が読み始めた欧米メディアは、ウォール・ストリート・ジャーナル、インターナショナル・ヘラルドトリビューン、フィナンシャルタイムス、エコノミスト(イギリス)、ビジネスウィーク、ファー・イースタン・エコノミック・レビューなど、職場に置いてあった、紙の媒体だった。

欧米でも、国家を支配する人々は、出来事の背景を美しく見せたがるし、自分たちの損になることは解説したがらない。そんなとき、欧米の新聞は、記者が感じた「うそ臭さ」を、皮肉やヒントのような表現で書き表し、読者に伝えたりする。これなら「誤報」として取材先から訴えられることもないからだ。こうした手法は、記者の「主観」を嫌う日本には少ないものだが、出来事の「なぜ?」を知りたい読者にとっては非常に役立つ。

そんな欧米メディアの記事を毎日読んでいるうちに、世界情勢の背景が、だんだんに見えてくるようになった。たとえば、この本の第六章で紹介している中東問題で、アメリカが考えた「平和の配当」構想は、和平と経済成長、それから欧米企業の収益増を一挙に実現させようとする政策だったが、1995年にイスラエルのラビン首相が暗殺され、イスラエル政府がタカ派となって占領地の撤退を拒否するようになったため、その経済政策は「バブル」となってしまい、崩壊に向かっている。ということは、ニューヨークタイムスやエコノミストなどを注意深く読んでいる読者なら、誰でも知っていることだ。

このことは、中東の人々にとっても、よく知られたことである。だが、日本の新聞をいくら熱心に読んでも、中東情勢の背後にある、そういった大きな動きは読み取れない。

日本は中東にもODAなどでいろいろと金を出しているが、国民のほとんどが事情を知らないまま金だけ出している、ということになってしまっている。私が理解した世界情勢とは、欧米や中東などの知識人なら、誰でも知っていることだった。

そして、そうやって分かってきた世界情勢に関する自分なりの解説記事を、書きたいと思うようになった。

それは、日本のマスコミでいう「客観的」なものではなく、私にとって世界がどう見えるかという「主観」に基づくものなので、日本の新聞記事としては、書けるはずもない種類のものとなった。だが実は、十分な情報をベースにした主観的な解説が、世の中に多ければ多いほど、国際情勢の本質が理解できるようになるのではないか、と考えた。
そして思いついたのが、個人のホームページを作り、国際情勢の解説を書いていく、ということだった。こうして、96年6月に「世界はどう動いているか」というホームページhttp://tanakanews.com/を作った。

インターネットの世界に入り込んだことにより、紙媒体で購読していたメディアのかなりの部分と、それ以外の、日本にいて紙媒体で購読すると、一週間遅れとなってしまう、さまざまな世界のメディアが、ネット上で読めることも分かった。

ニューヨークタイムス、ワシントンポスト、ロサンゼルスタイムス、クリスチャンサイエンスモニターなど、アメリカの新聞。それから、インディペンデント(イギリス)、ルモンド・ディプロマティーク英語版(フランス)、アラビックニュース(中東)、星島日報(中国語)、サウスチャイナ・モーニングポスト(香港)、アジアウィーク、ストレートタイムス(シンガポール)などを、新たに読むようになった。

「欧米メディア」というより、私が読める海外言語(英語と中国語)の、なるべく多くのメディアといった方がいいだろう。これらのほとんどは無料だ。有料の場合でも、月に500円とか1000円ぐらいの金額を払うだけで見ることができる。

これらのメディアは、その日の記事について、紙面に載せた記事の半分以上を、ネット上で展開していた。多くの場合、過去の記事は有料なので、毎日チェックして取り込んでおく必要がある。私は、一括してネット上からハードディスクに取り込むソフトウェアをパソコンに入れて、毎朝動かして貯め、記事を読んでいった。
(私は「NetAttachePro」という自動収集ソフトを使っている。http://www.tympani.com/でダウンロードし、15日間試用できる。本格的に使う場合は40ドル払うことが必要)

パソコン一台あれば・・・・・・

記事を読む際は、毎日全てを精読するのではなく、まず毎日集めた記事の見出しとリード文を読み、その中で面白いと感じたものを、中国、東南アジア、中東などと分野別に分けて、索引ファイルを作り、パソコンに入れておく。

そうして、たとえばインドネシア情勢が大きく動き出し、インドネシアについて何か書こうと思ったら、その索引を使って、英文記事のファイルを引っ張り出して10~20本ぐらい集めて印刷し、それを一日かけて精読し、自分なりのメモを作り、そのメモをもとに解説記事を書いていく、という方法をとっている。

こういった方法は、パソコン一台あれば、誰にでもできることだ。特に、マスコミで働いている記者の人々なら、執筆力もあるのだから、記者が個人でインターネットのホームページを立ち上げて、私が書いているような種類の解説記事を書くというケースが増えてもよさそうなものだ。

だが、聞くところによると最近では、新聞社や通信社では、記者が個人のホームページを作り、「00新聞で記者をしています」などと自分の名前や肩書きを明かしてニュース解説などを書いて載せることを禁じているという。「会社の名刺を使って取材したものは、会社のメディア以外で発表するな」ということらしい。

この手の締め付けを続けているので、目本のマスコミからは、だんだんと読み応えのある記事が出てこなくなってしまっている。だからいっそのこと、たとえば新聞社のインターネットサイトの中に、記者全員が5メガバイトずつ容量を持って自分のホームページが作れるようにして、そこで記者の「主観」がたくさん入った文章を白由に載せて良い、ということにすれば、閉塞に風穴を開けることができると思うのだが、現実が進んでいる方向は、どうも逆のようだ。

インターネットで世界の動きがわかる

解説記事は、仕事の合間に書くものなので、一週間に一本程度の、不定期刊行となった。読者がいつ、私のホームページを見ればいいか、困ってしまうと考えて、書いた記事を希望者にメール配信することにした。これは無料のサービスであるが、そもそもインターネットは費用がほとんどかからないので、配信する名簿の管理という手間はあるものの、無料で十分やっていけた。

今では、「まぐまぐ」(http://www.mag2.com/)という、配信登録の受付から名簿管理、配信作業まで、すべてオンラインで無料でやってくれるサービスができている。私も97年暮れから、まぐまぐを使って配信するようになった。

また「座敷牢」の関連で、もう一つ分かったことがあった。それまで私は「まず現場に行け」というのが、記者の基本だと思い、共同通信社を辞めて、中国世界に飛び込もうとしたのだったが、国際報道の現場に出て行く前に、読んでおかねばならない記事や情報が、インターネットの中に無数にあることが分かったのである。インターネットにつないだパソコンさえあれば、自宅や「座敷牢」に座っているだけで、世界の動きについての基本的なことがわかる(ときどき現場に行った方がいいのは当然だが)。
かつて幕末の志士、吉田松陰は、海外密航を企てて捕らえられ「座敷牢」に入れられたが、その中で人々に国際情勢について解説し、日本が進むべき道を語ったとされている。

吉田松陰は多分、ものすごい人だったのだろう。少なくとも私は、そんなすごい人間ではない。だが、現代のわれわれには、インターネットがある。壁に電話線のモジュラージャックさえあれば、座敷牢の中にいても、吉田松陰なみのことができるというわけだ。「現場」に行くのは、座敷牢の中で十分に学んでからでも、よさそうだった。

そんな風に考えながら、ホームページとメール配信で、自分なりに国際情勢を分析する記事を書いていると、マイクロソフトの人から電子メールが届いた。会ってみると、マイクロソフトでインターネットのコンテンツ(番組)をいくつか作る計画が進んでおり、その中にはニュースも含まれるので、もし良かったら、一緒にやりませんか、とのことだった。

それまでは、自分のインターネット上での発信は、収入とは関係ない「趣味」だったが、それを本業にできる、ということだった。私は喜んでマイクロソフトに入れてもらうことにして、97年4月に転職した。半年間ほど、新しいサイトの構築などに費やしたあと、97年9月ごろから、自分が担当するサイト『MSNニュース&ジャーナル』に、記事を書くようになった。

10月からは、サービスの一環として、記事の無料メール配信サービスを始めた。個人で配信していたときは、一年かけて700人しか読者が集まらなかったが、MSNで配信を開始すると、その告知力はものすごいもので、毎月一万人前後も増えるようになり、開始してから一年後には、読者が10万人を超えてしまった。MSNは、インターネットサイトの閲覧ソフト(ブラウザ-)の代表的存在である「インターネット・エクスプローラー」とつながっていて、多くのパソコンユーザーにとって、ブラウザ-を起動させて最初に見るページが、MSNのページだという設定になっている。だから、そこに出ている私の記事の見出しや、メール配信の告知文は、毎日何万人もの目に触れることになった。

雑誌「ホットワイヤード」によると、日本には7000のメール配信サービス(メールマガジン)があるというが、その中で私のものは第六位の配信数となっている。国際ニュースというのは、マイナーな分野なので、そんな読者の急増ぶりは、自分でも理由がわからず、驚きだった。

明らかに、旧来の「国際ニュースおたく」の範疇に含まれない人々が、多く読んでいるとしか思えない。97~98年には、世界各地で経済危機が発生し、日本経済についても、末期的状況があちこちでみられるようになった。それに伴って、多くの人が新たに国際情勢に関心を持つようになったからかもしれない。

読者からは、「MSNの解説記事を読んで、テレビでやっている国際ニュースが、よく理解できるようになった」「新聞は読んでも分からないし面白くないので、とるのを止めて久しいが、このメール配信だけは読んでいる」「テレビや新聞に、こういう解説が出ないのは、何かの陰謀なのでしょうか。教えてください」といったようなメールがひんぱんに届くようになった。

著者略歴

田中宇(たなか・さかい)

1961年東京都生まれ。PC一台を駆使して世界の情報をダイレクトに読み、日本のマスコミが流す情報とは異質のそれを発信している観察者(ウオッチャー)。
東北大学経済学部卒業。共同通信社を経てマイクロソフト入社。日本初の本格コラムサイト『MSNジャーナル』を立ち上げ、ネットジャーナリズムの先駆けとなる。MS退社後、ウェブサイト「田中宇の国際ニュース解説」(http://tanakanews.com/)を運営し、18万人余の読者に毎週好感度の情報を発信している。
著書に『マンガンぱらだいす』(風媒社)、『神々の崩壊』(風雲舎)、『タリバン』(光文社)、『非米同盟』(文春新書)、『仕組まれた9.11』(PHP)、『世界がドルを棄てた日』(光文社)、『マスメディアが出さないほんとうの話』(PHP)ほか多数。

田中さんのサイト「田中 宇の国際ニュース解説」
http://tanakanews.com/