光の草
祈りと救済の文学!
成田守正

光の草

69歳で、父はなぜ、どこへ失踪したのか?
反目した父親の失踪から13年。50歳を過ぎた銀行員がわが道を振り返って目にした衝撃の事実――父子相克からの救済の道程を描く「光の草」。
グリコ・森永事件の模倣犯になって破滅した男の心を蝕んだ“サラリーマンの帰属意識”に迫る「サバーバンスカイ」。
離婚で生別した父と子に待ち受けていた運命の悲痛を綴る「風と流木」。
三編を収録。

書評より

勝目梓さん評

沈潜する生の悲哀が静かに発光し、救済をめざしてうねってゆく文体に、私は心を動かされた。文学表現への強固な意志の、見事な所産というべき作品集である。

西日本新聞  2009/9/27(日) 読書館欄より

昏き淵にも底流がある
「サバーバンスカイ」「光の草」「風と流木」の3作からなる純文学小説集である。現代人は多かれ少なかれ、この世での自己の立ち位置を失っている。ジグソーパズルのどこに当てはめようとしてもはまららい自分を抱え、途方に暮れる。だがこの3篇に共通する挫折と痛みの底をのぞくと、静かな動きが感じられた。心の沈み落ちる昏い淵にも底流があり、時の流れとともにいずこかに向かっているようなのである。
成田氏は、フリーの編集者である。また、文庫解説、評論でご存じの読者も多いだろう。編集者が書き手になるという例は時にあるが、自分の小説を編集者の眼で見るプレッシャーは大きいに違いない。
「サバーバンスカイ」のストーリーは、グリコ・森永事件の模倣犯になって逃亡するショッキングな題材を、サラリーマンの帰属意識に絡めて進んでいく。タイトルは、ビートルズの曲「ベニーレイン」の一節。帰属意識を突き詰めると、帰属せずにはいられないのか、さらに本当に帰属しているのか、もしその帰属から逃げ出すとすれば どこに行こうとしているのかを考えさせられた。だが、膨らませれば、人間誰しも、男の生身の苦しみと、数百年を経た奈良古墳や神社の静謐の対比が際立っていた。
「光の草」は、父が69歳で失踪してから13年、区切りで法事をしようとする銀行員の息子が自らの人生を振り返っていく作品である。施した迷彩を払い落としたとき、息子に見えたものは何だったか。「あの疎ましい父は自分だった」という衝撃。作品中に描かれる痛みと悔恨は深く,人であることお物哀しさが滴り落ちる。にもかかわらず、読後に不思議な涼感が残るのはなぜだろう。それは、とりもなおさず、この作品が何に向かっているかによる。つまり、最初にもどるが、底流はゆっくりと救済に向かっているのである。その澪標が見えている限り、人は昏い海にも顔をあげていられるのだと思った。
(作家 原口真智子)

週間新潮 2009/9/24日号 十行本棚より

クマゲラが棲息する森に向かった父が消息を絶って13年。己の人生に影を落とす父子相克からの脱却を求めて、50歳になった息子は父の姿を追う心の旅に出た。
端麗な文章で綴られる物語は、深く沈潜する生の悲哀と祈りにも似た希望に彩られている。他に2編を収録。

著者略歴

成田守正

1947年宮城県生まれ。71年より出版社勤務。86年フリーの編集者に。
2004年から同人誌「スペッキヲ」に参加。