太一〜UFOに乗った少年

湘南、烏帽子岩を舞台に展開される壮大なスピリチュアルファンタジー。
読み出したら、もうやめられない。

 

「少年のときめきを絵にしたような小説。
NHKの『少年ドラマシリーズ』を思い出した。
第1章を読み終えるあたりからワクワクして、もう中断できなくなった。最後は読み終えるのがもったいなかった。こんな作品が生まれる時代を僕らはずっと待っていた」(スピリチュアルTV主宰 小泉義仁氏)

 

多くの人と同調し合い、助け合い、愛し合うこと、
君たちにそれができるか?
謎の存在からつきつけられた課題を少年三人と老人ひとりで三日以内に実現できるか?

UFOは単なる宇宙人の乗り物ではなく、霊的なものであり、さらに言えば、歴史上すでに登場したものだと思うのです。

過去の人々はそれを神だと思って見ていたでしょう(著者)

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46版並製272頁

2014年2月18日発売
ISBN978-4-938939-75-5
定価(1,400円+税)

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【本書の内容】

「UFOって本当にあるのかなぁ?」
太一が唐突に聞くが、クサじいは落ち着いた雰囲気でその質問に答える。
「うむ、それは微妙だな」
「微妙?」
「太一、波はあるか?」
「波があるか? 目の前に波は立っているじゃないか」
茅ヶ崎の浜辺にはいつもと変わらず、サーファーにとって心地いい波が立っていた。
「あの波は水であって、波が『ある』訳ではないのではないか?」
太一はクサじいが何を言っているのかよくわからなかった。
「サーファーたちが乗っている波は水の運動状態であって、波という物体がある訳ではない。特定の運動状態を水がしているとき、それを儂(わし)たちは『波』と呼ぶ。それは存在する物ではなく、特定の状態だ。存在しているのは水だけだ」
「ああ」
「ところが儂たちはそこに『波がある』と思いこんでいる。波があるのではない、水があり、それがある特定状況にあるとき、それを『波』と呼んでいるに過ぎ ない。つまり『波』はそこに存在するのではない。水が存在し、その運動状態を『波』と呼んでいる。UFOも同じようなものだ。もっと言えば『生命』も同じ だ。原子がある規則にのっとり整列し、脈動を吹き込まれることで生命になる。同様にUFOは存在するのではない、現象として現われるのだ」

 


【主な登場人物】
太一 小学五年生。転校してきたマスオと仲良し。両親が離婚の危機にある。
父親がジャズトランペッター。いつか自分もトランペットを演奏したい。同じクラスの奈緒が好き。でも言い出せない。奈緒と仲の良い真樹に嫉妬している。
クサじいと出会うことでとんでもない体験をする。
真樹 小学五年生のサーファー。ジェリー・ロペスに憧れている。奈緒と幼なじみ。父親がサーフショップを経営している。英語がちょっとできる。父親に習ってホームページを作るクールボーイ。
マスオ 本名は健。太一にあだ名をつけられた。父親が元パイロット。UFOを目撃したことで父親は地上勤務にされた。父親の汚名をそそぐため、UFOが実在することを証明したい。だけどUFOを見たことがない。
奈緒 世界を平和にするために外交官になろうとしている。ピアノが上手。父親に聞かせるために練習した。とてもまじめで母親が心配している。
クサじい 謎の老人。「調べを聞け」と言っては未来を予知したり、遠くの出来事を言い当てたりする。本名は草川龍馬。息子と仲が悪い。

 


足下の最勝寺が次第に小さくなり、小田原の街が見え、その向こうに海が見える。はるか下方に広がる地形が日本地図の一部であることがはっきりとわかってきた。伊豆半島や三浦半島が、やがて本州すべてが見えてきた。
「UFOに僕が乗っている!」

小学校で給食の時間になり、マスオは割烹着を着て給食を配っていた。すると隣のクラスにドヤドヤと五、六人の黒いスーツにサングラスの男たちがやってきて、真樹を捕まえて行こうとする。太一はその様子を見て、大声でマスオを呼んだ。
マスオが廊下に出て行くと、三人の男たちが真樹を抱えて廊下を走っていく。太一が止めようとするが他の男たちにさえぎられてどうしようもない。男たちの 何人かは白人のようだった。先生を呼びに行く生徒もいたが、あっという間でどうしようもなかった。男たちは昇降口そばに止めてあった黒い車に真樹を押し込 み走り去った。

スクリーンが出され、そこにククのブログが投影された。真樹が朝に書いた書き込みにコメントが何百とついていた。順番に読んでいくと、はじめのうちは応援のメッセージだったが、次第に様々な提案のコメントになっていった。
「感動しました。英語に訳してもいいですか?」
「英語に訳してこちらにアップしました」
「具体的には何をしたらいいですか?」
「次の書き込みを待っています」
「メーリングリストにここのURLを流しました」
「フランス語訳をこちらにアップしました」
「私たちがするべきことは、きっと祈ることだと思います。祈り合った上で、きっと一緒に何かをするのでしょう。UFOを飛ばすために何をすればいいのでしょう?」
「スペイン語訳をこちらにアップしました」
「中国語訳をこちらにアップしました」
「インドネシア語訳をこちらにアップしました」
「FMニッポンです。翌朝の電話インタビューに答えていただくことはできますか?」
「七月三十一日は明後日です。何をすればいいのか至急こちらに書いて下さい」
「こちらのブログだけではパンクする可能性があるので、転載させてもらいます」
「私のブログに転載しました」
「メールマガジンにここの情報を流しました」
「ライトピラーに会いたいです。どうすればいいですか?」
この書き込みくらいまでは良かったが、次の書き込み以降はヒステリックにコメントが増えていった。
「もしかして、小学校で誘拐されたというNくんとここの『マサキ』さんは同一人物ではないですよね? この書き込みが理由でメン・イン・ブラックに捕まったとか?」
スクリーンを見て再読み込みをする度にコメントは増えていった。そしてついにククのブログにつながらなくなった。

「恵子、実は昨晩、太一に変なこと言われた」
「変なこと?」
「ああ、UFOに乗ったっていうんだ」
「まさか」
「あり得ないよな。だから、そんなあり得ない話するなって言ったんだ。ひょっとして今晩いないのはそれが関係しているのかな?」

 

「もしもし、健か?」
「そ、だよ」
「いまどこにいるんだ?」
「いますごいことになってる」
「何が?」
「内緒だけど、実は、昨日、僕、UFOに乗ったんだ」
一博は驚き、黙ってしまった。
「もしもし、父さん。ついにUFOに乗ったよ」
「ほ、本当か?」
「本当さ。それで、いま、アメリカの軍隊と自衛隊とに協力して、いろいろとしなきゃならないことがある。だから、今晩は帰れない」
「そ、そうか」
「父さん……」
「なんだ」
「父さんのかたきを取るからね。世界中の人たちがUFOは飛んでいるんだって信じられるようにするから。これで父さんはパイロットに戻れるよ」

 

「ニュース・オメガ」のテーマ曲が流れ、飛谷志郎が画面に映された。
「おはようございます。いつもですとこの時間は寝ているんですけど、昨日入ったニュースを今朝、生でですね、伝えるために、スタッフ全員徹夜で準備いたし ました。それほど驚くべきニュースをこれからお伝えいたします。もし私たちが調べ上げたことが真実であるなら、今日、そして明日は歴史に残る日になるかも しれません」

 

「ここで今日のゲストをご紹介いたします。『まだ見ぬ日』『空蝉』などで有名な作家の小口民雄さんです。今日はありがとうございます。今回のこの事件、謎が謎を呼んでいる、そしてもうすぐ記者会見ですが、どう思われますか?」
「UFOと瞑想ですよね。そうなると最初に思い出されるのはヘブンズゲートですね。一九九七年のヘール・ボップ彗星接近の際に集団自殺をしました。宇宙船に魂を乗せるために肉体から魂を解き放ったということらしいですが、恐いですよね」
「ああ、思い出しました。みんな同じ金額のお金をポケットに入れていたんですよね」
「はい、五ドル札と二十五セント硬貨ですね」

信心深い人たちは太一たちが見たライトピラーを、長い間信じてきた本物の神だと考えた。神の秘蹟がおこなわれ、その神が「人類の利益を考え、愛を持って人を助けなさい」と言われたのである。多くの人々がそれに従おうとした。

 

宇宙から見た地球は、鼓動する心臓となった。
意図的で平安な、愛で満たされた静寂。
地球全体がそれまで体験したことのない満足や幸福感に包まれた。

 

「著者略歴」

宝生 明(ほうしょう・あきら)
東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒。大手広告会社を退職後、ライターとして雑誌などに執筆。