風雲斎のひとりごと No.9 (2007.7.19)

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「ブラインドサイト――小さな登山者たち」という映画のこと
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表記の映画が近く上映される。
チベットの盲学校の生徒達がエベレストをめざすというお話だ。
原作はサブリエ・テンバーケン。子供達と同じ盲目のドイツ人女性で、チベットに盲学校を創立した先生でもある。原作者自ら、生徒達と一緒に出演するドキュメントだ。

この映画の前提に相当する『わが道はチベットに通ず』という一冊の本は、風雲舎の出版(2001年)だった。そんな縁もあってか、試写会に呼ばれた(宮中から、この道に関わっているという紀子さまもいらしていた。満座の中で、すぐそれと分かる光りようだった。僕は皇室主義者ではないが)

映画は、とてもおもしろかった。
取り立てて目を見張るような筋立てや仕掛けがあるわけではない。アクションもない。ただひたすら盲目の子供と先生達が山に登るというストーリーである。

エベレスト(といっても標高7000メートルのラクパリ)に登るにはプロのクライマーの協力がいる。プロに先導され、高度を上げて行くにつれ、高山病にやられる者が出る。
プロ達はあと一歩の地点(6500メートル)まで来たのだから、落伍者を下山させても頂上をきわめようと言う。サブリエは、そうではない、ここまで子供達と一緒にやってきたことに意味がある。頂上をきわめるかどうかは問題ではないと反論する。

多分この部分がこの映画の事件らしい事件なのだが、サブリエは、次のようなことを言いたかったのだろう。エベレストに挑戦するという行為のプロセスが大事なのだ。それは、盲目であっても、エベレストであれ何であれ、何か目標を立てれば、何でも達成できる、やってやれないことはない――ということをみんなに分かって貰うことだと。

子供達の表情が良かった。
盲目であることは、チベットではそれまでは、人間として遇されなかった。一生家の中に閉じこめられて過ごすか、物乞い、乞食が定番だった。彼らはサブリエ達が創った盲学校で学ぶことで、知を学ぶ術をつかみ、世界を知り、新しい人生を得た。点字器を操り、英語をかなり流ちょうに話し、臆せず、堂々と人間らしく生きていた。そうかそうか、君たちみんな、元気でやっていたんだなと安堵した。

サブリエはチベットの盲学校を現地の人の手に委ね、南インドに新たな拠点を建造中だという。こうした運動を支える資金はすべて欧米からの寄付によるのだともいう。その社会的厚みに脱帽すると同時に、逆境に次ぐ逆境の中で、そういう意志を継続しているサブリエと連れのパウルに敬意を表したい(www.blinden-zentrum-tibet.de)。握手を交わしたサブリエの手は冷たかったけれど、その目は、とても強い意志に輝いていた。すごいね、君たち!

そんな次第で、サブリエの第2作「7年後――チベットからインドへ」(仮題)も風雲舎が出版することに決めた。

映画「ブラインドサイト」は、21日から「シネマライズ」「品川プリンスシネマ」などで上映されるが、関西方面での上映もある由。
どこで上映されるかなどはhttp://www.blindsight-movie.comまで。(以上)