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   風雲斎のひとりごと NO.8(2007/05/23)
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このメールマガジンは、これまで風雲舎とご縁のあった
方に発信しております。よろしければご一瞥下さい。
なおご不要の方は、お手数ですがその旨ご一報下さい。
リストからはずします。
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「手かざし」という癒し
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左の肩が痛くて、好きなゴルフをやめた。
クラブを振り上げると、ビビッと激痛が走ったのだ。四十肩、五十肩どころではない、ガタのきた六十肩である。後を追うように右の膝が痛み出し、電車の乗り換えにはホームでエレベーターを探すようになった。二年ちょっと前のことだ。情けない。このままよたよた爺さんになるのもしゃくで、近所の整形外科、骨接ぎから始まって、カイロ――鍼灸――ふたたび整形外科と、信用できるツテを頼りに、名医や名のある治療院をかけずり巡った。でも、わが痛みを治してくれる医療者はどこにもいなかった。

ところがあることで、肩も膝の痛みも、けろりと直った。「手かざし」である。
知識としてはゴッドハンド(神の手)やゴッドライト(神の光)を知っていたが、実用は初めてである。あるスピリッチャルなおばちゃんが「この人にお願いしてみたらどうかしら……」とさるご婦人を紹介してくださった。およそ3ヵ月、回数にして14、5回ほど、ご婦人に、文字どおり”手をかざして”もらった。朴念仁の僕には、気の流れのようなものはわからない。効いているのかどうか、見当も付かない。ふーん。
 
おやと思ったのは、何度か手をかざしてもらった後、久しぶりに行ったプールだった。クロールの際に左腕がちゃんと上がるではないか。ちょっと前まではまったく上がらず、右腕だけの片腕泳ぎだった。それが、左手が挙がるので、まともに泳げるようになった。同じ頃から膝もよくなって、歩行もちゃんと出来るようになった。欲がでて、物置に放り込んでいたクラブを取り出し、おそるおそる振ってみた。腕が回る。5月の連休、二年半ぶりに回ったコース本番は、ラウンドで97。二度目は41:46で87と出た。うん、やはりおれは筋がいいのか。
 
あらためてこのご婦人を見直した。還暦がらみの奥さま。商社マンのご主人と海外暮らしが長く、教養、人品骨柄、どれをとっても奥が深い。謝礼をどうしようかと案じて現金でもと申し上げたら、「じゃあ、もう来ない」とのたまう。お金を稼ぐためにやっているのではない、ご縁があり、悩んでいる方のために手をかざしているだけと毅然たるご返事。もう20年ほど、こうして人知れず、傷んだ人に手をかざしているのだそうだ。僕の肩、膝の痛みなどはほんの序の口で、難病、業病も手がけてきたとか。その手法はある宗教団体から発したが、その教えや宗派のPRをするでもなく、まあよかったら関連の本でも読んでみてと、まことに悠然たるものだ。

効果らしきものが現れたのをきっかけに、僕ひとりではもったいないと気が付いた。脳梗塞で倒れリハビリに取り組んでいる編集仲間、癌と宣告され不調を訴えている大学教授、不定愁訴に悶々としている女性、肩が張って仕事がつらいつらいとこぼしている職業婦人――共通しているのは、病院に行ってもラチがあかないような人種である。打つ手が見いだせず、苦しんでいる人がこんなに多いとは!

彼女には、定期的にうちの会社にお運びいただく。
狭い事務所のソファーをかたづけ、敷物をひいて簡易手かざしルームのご開帳だ。ひとり一時間ほどかけて、手を当てていただく。むろん、みんながみんな快癒したわけではない。進行形の人びとだ。傷ついた仲間達は、この不思議な癒しに、一縷の希望をつないでいるようにも見える。

この方はとうとうと弁舌をぶつわけではない。
天空に遍在している神のパワーを受け、傷んだ部位に手をかざす。そのパワーは、人体を元の形、自然の形に戻す力を持っているので、天空からいただくだけ――ということになる。自らうんうん唸り、苦労してパワーをひねり出している風でもなく、正座して、30センチほど手を離し、淡々と患部に手をかざす。
ふーん、参った、手かざしねえ――。
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糖尿にはどうなのだろう?
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実は、肩と膝の痛みは、前奏曲だった。
僕には糖尿病というやっかいな病気がある。糖尿病による入院が2回、血糖値の変動が激しく、それに起因する症状が、近頃とみに顕著だ。とりわけ視力の衰えが恐い。原稿が読めない編集者では、商売にならない。そこで、ついでに糖尿病も治してくださいなと気安く頼んだら、彼女、「やってみましょう」とおっしゃる。ただし条件があると。
「あなたがこれまでの生活をあらため、自分を変えること」がそれだと。
この病の最高権威を自称する某病院の「インスリン療法」に辟易していた僕は、彼女に依存することを決めた(といって近代医学を捨てたわけではなく)。酒浸り、大食、夜更かしの日常をあらため、暮らしを変え、心を正そうと。

以来、禁酒、禁煙、カロリー制限、朝晩1時間ほどの散歩(ときおり羽目をはずすのだが)、なにより6段ギアつきのチャリを購入し、専用ヘルメットをかぶって近所のツーリングがおもしろくなった。こと糖尿病に関しては、緒に就いたばかり。結果はまだ見えない。
でも、何となく、治ると感じている。 

親しいあるお医者さんに聞いてみた。「こんなことってあるのですか」
医師曰く、「これが本当の癒しではないかな……」と。
これはフィクションではありません。実話です。

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ひどい腰痛に7年間も苦しんだエンジニア
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上記の僕のケースとはちょっと違うのですが、次のような奇特な人がいます。
ひどい腰痛になった。さんざん医者通いしても、ちっともよくならない。じゃ、自分で治そうとあれこれ文献を読み、戦略を立て、それに添って治療し、ついに7年越しの痛みから解放された! その考え方が、まことにユニークなのです。

戸澤洋二(57歳)さんは電気機器メーカーに勤める電子工学のエンジニア。ばりばりの仕事人間だが、フライフィッシング、ラジコン飛行機、星の観測など、遊び心も旺盛だ。あるとき、チクチク腰に痛みを感じた。整形外科に行くと「これは座骨神経痛ですね」と。しかし回復の見込みが見あたらず、以来、ドクターショッピングが始まった。

整形外科からスタートして、カイロプラクティック、骨接ぎ、鍼灸、中国整体、ゴムバンドによる腰のぐるぐる回し、気功――と渡り歩くが、一向によくならない。それどころか、10メートルと歩けないような痛みがやってきた。遠距離通勤の途中、一駅ごとに下車して休むような事態を迎えた。痛みは、「いっそこの足を切断してくれ!」と悲鳴を上げるまでに激化。椎間板ヘルニアのような物理的障害は見あたらない。注射も薬もまるで効かない。「みのもんた」氏の腰痛を治したという「神の手」を持つ医師にも行ってみた。あれもダメこれもダメ。
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「痛みのループ」
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さて困った。戸澤さんは、本気で考え込んだ。
「助けて下さい、何とか治して下さい」という態度では、治らない――それがわかった。どうするか。資料をあさり、本を読んでいるところで、「サーノ理論」にぶつかった。サーノ理論というのは簡単に言うと、「心に精神的な苦痛があるとき、脳は体の一部に痛みを発生させ、その精神的な苦痛から注意をそらそうとする」というもの。

ピンと来た。
おれの痛みはこれじゃないか。
その考えに従って戦略を考えた――おれの心の中に、うんとヘビーな精神的な悩み(ストレス)がある。脳は、それをそらすために、腰痛・座骨神経痛という代替行為をとったのではないか。つまり心のストレスが、腰痛・座骨神経痛というかたちで現れたのだ。痛みの回路は次のようなものに違いない――脳から腰痛・座骨神経痛へ、そこからまた脳へ、そしてふたたび脳からまた現場へと、痛みはぐるぐる環(ループ)となってエンドレスに回っているのではないか。戸澤さんはこの環を、「痛みのループ」と名付けた。だから対策は、この「痛みのループ」をどこかで断ち切ればいい――。

この戦略に則って戸澤さんが行ったのは、次のようなことだった。
�毎週一回、ペインクリニックで、圧痛点(触って痛い箇所)に、トリガーポイントブロック注射を打ってもらう。トリガーポイントブロック注射というのは局部麻酔注射。
�麻酔が効いて痛みが消えているうちに、脳を、「楽しいこと」に専念させる。脳に、痛みのことを忘れさせ、楽しいことで忙しくさせるのだ。大事なことは、脳をいったんリセットさせること。勘違いで凝り固まった脳に、痛みを無視するように仕向け、そして、よくなったイメージを脳に与えるのだ。
�そのため抗不安剤を服用すると、大いなる援軍になった。
�それとは別に、毎日のストレッチ、週末のプールで、肉体と気持ちをリラックスさせた。

言ってしまえば、たったこれだけのことだが、ここまでたどり着くのに6年余の時間がかかった。この戦略を実践して3ヵ月、あの激痛は、きれいさっぱり消えた。
戸澤さんはいま、鼻歌を口ずさみながら、大好きなラジコン飛行機を飛ばしています。

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『腰痛は脳の勘違いだった』
……痛みのループからの脱出……
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という風雲舎の本が出来ました。
(定価1575円 5月末発売)

心当たりのある方に、ご一読をお薦めします。
出版前に、帯津良一先生にこの話をお伝えしたら、それはおもしろいと、あの超多忙人間が原稿を読んで下さいました。
その上で、こんなお褒めの言葉を頂戴しました。
……私はがん治療におけるこころの重要性を説いてきた。しかし著者のような「「回路の論理」には思いつかなかった。さすが、工学畑の人だ。「痛みのループからの脱出」という著者の論理は、がんを始めとするすべての慢性疾患に通ずる治癒の原理なのかもしれない。これは慢性疾患に悩む人の必読の本であり、すべての医療者に一度は読んでいただきたい書である……

腰痛に悩んでいる人は1千万人、いるそうです。
椎間板ヘルニアなどの物理的、具体的な障害を伴う腰痛は、そのうち30%。のこり70%の腰痛患者は、理由のはっきりしないそれに悩んでいるそうです。ドクターショッピングを繰り返している人、仕事にも出られない深刻な人、時間とお金を使って出口にもたどり着けない人――心当たりのある方に、ご一読をお薦めします。
脳の勘違いで、体のどこかが慢性痛を訴えていませんか。
痛みのループにはまりこんでいませんか。(以上)

(また長い文章になりました。今後は短めにするよう努力します。ありがとうございます)