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宇宙と同調する時空間
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まだ雪が残る2月末、UFOが現れるという温泉に行きました。
名前は秘しますが、長野駅から車で2時間ほど北西の方角に行ったある秘湯です。
UFO観察歴18年という女性とその友人の先導で、標高7~800メートルの山奥の、さらにその奥にある行き止まりです。彼女たちの話によれば、ここが何度もUFOを目撃したメッカのひとつだそうです。
夕食を終え、11時過ぎになって、彼女たちはやっと腰を上げました。UFOを観るには、2時から4時頃が最適なのだといいます。UFOを目撃できるというお目当ての露天風呂は、温度といい、湯の味といい、眺め(翌朝観た)といい、「わあーい!」と声を上げたくなるような、いかにもひなびた野趣に満ちています。
雪をかぶったあたりの笹藪を、つがいのたぬきがささっと横切ります。このあたりは、時々、カモシカ、キツネ、テンなどが出没するそうです。大きな岩を抱えた山がグイとせり出して空間を切り取り、クヌギ林越しに、天空が広がっています。この空を、緑紅色のUFOが、嬉しそうに乱舞するのだそうです。
はやる僕は真っ先に露天風呂につかったのですが、遅れてやってきた彼女たちは手慣れたものです。夕食の残りのおにぎり、野沢菜などをお盆に入れてお湯に浮かべ、さあ長丁場という構え。ホースからの冷水でお湯を適度にぬるめながら、出たり入ったり、歌を歌ったりおしゃべりしたり、朝方までこうして時間を過ごすのだそうです。(お酒があればよかった!)
最初は行儀良く湯上がりタオルを巻いたりしていたのですが、適度の暗がりもあって、そのうち、互いに異性などという意識がぶっ飛びます。
「早く出てこい。早く出てこい」と急いている僕のこころを察知してか、Uさんというウォッチャーは、こんなふうに言ってくれました。
「山さん、この露天風呂では、ゆったりと構えてね。仕事のことは忘れ、娑婆のことは捨ててください。今吹いている風、葉っぱの葉ずれ、川のせせらぎに、あなたの注意を合わせ、呼吸してくださいね」。
さすが、いいことを言いますね。
持参した原稿のこと、明日以降の仕事の手だてのことなどを放棄して、ひたすら湯につかり、ぼんやりします。……ZZZ、ガブリとお湯を飲んでいました。気が付くと、眠ってしまって、顔や頭が湯の中に没したようです。そうそう、そうしてこの宇宙空間と宇宙時間に同調しなさい。そうすればUFOさんが姿を見せてくれる、というわけです。
大事なことは、「イライラしない」ということでした。
しかし、どうも雲行きが怪しい。12時を過ぎた頃から、雲が厚く張り出してきました。この日、僕は深夜2時頃まで(彼女たちは4時頃まで)粘ったのですが、雲が晴れず、結局UFOにお目にかかることはできませんでした。彼女たちは、「ま、こういうこともあるのよ」とけろっとしたものです。温泉行きは、月に一度ほどの定例行事とのこと。このお努めなしには、やっていられないのだそうです。僕は、半年後、一年後の原稿を約束して、翌朝山を下りました。なんか、病みつきになりそう……。
収穫は「イライラしないこと」です。
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小林正観さんの「般若心経」
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さて、下界に帰りました。
今抱えている仕事が、小林正観という不思議な人の
『釈迦の教えは「感謝」だったーー悩み・苦しみをゼロにする方法』
という本です。
不思議な人というのは、誠にヘンな人で、まるで宇宙人です。
僕のこころ、僕の財布の中身、僕の今後のことまで、何でも知っているのです。僕を知っているというのは、あなたも、人間というヒト科動物のことをよく知っているという意味です。
取材中、ふと気が付くと、小林さんがしきりとおっしゃったのは、「イライラしない、がつがつしない、せわしくしない」ということでした。
あれ、同じことだなあ……
本の内容を簡単に言えば、他人の言動やものごとの推移を、「ああしたい、こうしたい」と自分の思い通りにしようとしないで、ただその現実を受け容れること。この世の悩み苦しみとは(凝縮してみると)、「思いどおりにしたいのに、それが叶わないこと」だそうです。
小林さんは何万何十万件という相談事を受けてきて、その偉大な事実に気が付きました。「へえ、そうなんだ」と思っているところへ、お釈迦さまが「般若心経」で、そのことを言っていることに気が付きました。二千五百年も前にですよ!
たとえば、「子供が不登校になった。受け容れなさい」というのです。
子供が勉強しない——-受け容れなさい
上司が厳しいことを言う—受け容れなさい
夫が病気になった——-受け容れなさい
そういう受け容れ方が分かってくると、受け入れの最高の形は、「ありがとう」と感謝することだ、というのです。
●人間をじっと観察してきた
●人はなぜ悩み・苦しむのか
●「苦」とは、思いどおりにならないこと
●「般若心経」は難しくない
●受け容れる
●有り難し
●人は喜ばれると嬉しい
●宇宙を味方にする
●釈迦の教えは「感謝」だった
—こんな内容の本ですが、4月下旬に出す予定です。
奇妙なことに、UFOを観察する心と般若心経の心が同じようなことと見えたのでした。
イライラしない。
がつがつしない。
あるがままの事象をそのまま受け容れる。
うーむ……日頃、わが身、わがこころの、何と対極にあることか!
あいつがどじだから、あいつがこうしてくれればいいのに、ああ動いてくれ、こうなって欲しい、これは認められない、あれもこれも気に入らない……「思いどおりにしたいのに、それが叶わない」……。
うーむ、なかなか味のある温泉行でした。