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風雲斎のひとりごと No.30 (2011.4.20)
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このメールマガジンは、これまで風雲舎とご縁のあった方々に
発信しております。よろしければご一瞥下さい。
ご不要の方はお手数ですが、その旨ご一報下さい。
送信リストからはずします。

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しーんと静まりかえっている
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津波と地震、原発。
東北出身のぼくは、あっちに友人が多い。
宮古市の友人は関係者3人(兄夫婦、その母親)を亡くした。
同じ岩手・山田町の友人はご主人がまだ見つかっていない。
高校時代の友人一人も行方不明と聞く。
何とも慰めの言葉がない。
(でも)身内に不幸はなかったと胸をなで下ろしたとき、
なぜか「みんなが幸せにならないと、私は幸せになれない」
(本当は釈迦の言葉)という宮澤賢治の言葉を思い出しました。

以来、とても涙もろくなった。
街のみんなに、ちょっと元気が戻ってはいるが、
心の底では、しーんと静まりかえっている。
この先、どんなご時世が来るのかに不安を感じているのだ。
いや、恐怖していると言ってもいい。

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どんな時代が来るのか
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知り合いのAさんは沖縄へ、Bさんは松山へ住みかを移しました。
天地がひっくり返るのだろうか。
一体どんな時代になるのだろう?
折も折、たまたま仕事として向かっていたのが
『どんな時代が来るのか――2012年アセンション・マニュアル』
というタイトルの翻訳書でした。

グレッグ・ブレイデンとか、ピーター・ラッセル、ホゼ・アグエイアス
(つい先日亡くなった)、アルジュナ・アルダフ、クリスティン・ペイジ
(オランダのある会合で知り合い、プールで一緒に泳いだ)など錚々たる
世界のトップ知性が、「2012年アセンション」をどう捉えるかを論じて
います。

いまの地震をアセンションと結びつけるなど、それは短絡に過ぎると
言われそうだが、10年ほど前にこの言葉を聞いて以来、着々と歩みを
進めて符丁がピタリと合ってきた、という感がないでもない。
「フォッサマグナ」(柏崎から銚子を結ぶ線、糸魚川から静岡を結ぶ線に入る
4辺形のゾーンにズレが起こる)という恐ろしい仮説を持ち出して、
いま本当に怖いのはそれだと言う人間もいる。しかし、誰にもそれは分からない。

上の原書の訳(菅靖彦訳)を読むと、黙示録的な人類の破滅云々よりは、
人間の意識の変化――目覚めた人びとが出てきて、この毒まみれの地球の
集合意識が変化する――を上げる人が多い。これはオプティムな見解。
むろんポール・シフト(地軸の逆転)も多々出てくるが、こうした連中の見解
を読むと、いずれただごとでは済みそうもないと感じます。
おしなべて13人の論者が主張するのは、つまりは個人の選択だという点です。
どう生きるか、何をどう選択するか――あなたが決めろというわけです。
ちょっと怖いけど、読み応えのある、すごい本でした。

知り合いのシャーマンのご婦人にどうしたらと伺うと、
じたばたするな、死ぬときは死ねと。
ぼくもそれで行く。
じたばたしない。
何がどうなるか、それをじっと見ながら。

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ホワイトエレファント
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今月は2冊の本を出しました。 上の本に加えて『ホワイトエレファント』という小説です。

東京三田の「済生会病院」の玄関ホールに、大きな絵がかかっています。
小さな集落の冬の夜明けです。集落はまだ眠っています。
東の山あいから朝日が差してきて、集落や田畑などあたり一面を
“朝ぼらけ”の色調に染めていく一瞬を描いた作品です。
タイトルは「シンフォニー早春」。画家の名前は沖津信也。

この病院に入院していた頃、ぼくは、この絵に元気をもらいました。
その絵の前を通る度に、きみも、もうすぐよくなるよ、もうじき元気になるよ、
と囁いてくるのでした。「シンフォニー早春」は、快癒、芽吹き、再生などを
患者のこころに与えてくれたのです。

『ホワイトエレファント』という作品に目を通したとき、とっさに思い出したのは、
あの絵でした。この小説のテーマは、(ぼくの印象では)「自立」です。4人姉妹の
末っ子に生まれた主人公が、いじめられ、どつかれ、誰にもノーと言えないような
トラウマを背負って生きていきます。誰でもその名前ぐらいは知っているような
裕福な家庭ですが、末っ子の叫びは父にも母にも届きません。
主人公咲子の声にまっとうに耳を傾けてくれたのは、近所のみーちゃんのおかあさん
だけでした。

長じて海外留学しても、咲子は相変わらずノーと言えません。軟弱で、一人では
何もできない、自分をちゃんと表現できないアダルト・チルドレン。
しかし人生は進み、結婚、出産、家事――さらに大きな事件へと時を刻みます。
咲子はだんだん自分に気づきます。
そして夫ポールに「別れたい」と切り出します。

クライマックスは、すぐ上のお姉さん・3女房子との場面。
房子は咲子を子どもの頃から「馬鹿、脳足りん、親は乞食かパンパンか」と
毒づいてきた最大の強敵。ン十年ぶりの再会にも、相変わらずの毒矢を放つ
お姉さんの背中に腕を回して、咲子はこういいます。
「仲良くしようよ」と。

これで救われました。咲子は自分の足で立ったのです。
あの絵のように、そこには、自立、和解、再出発などがありました。
こんなセリフが印象に残ります。
「逃げないで。勇気を出して、大人になって」。

長く暗い夜が終わって、やっと朝日が出てきた――まさに夜明けです。

カバー絵は息子さん・フランシス真悟さんの作品。
そのタイトルも「Early Light(dawn)」(夜明けの光)でした。
ぴったり符丁が合いました。
良かったら読んでみてくださいね。(今号終わり)

2011.4.20 風雲斎