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風雲斎のひとりごと No.52(2015.1.26)
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このメールマガジンは、これまで風雲舎とご縁のあった方々に発信して
おります。よろしければご一瞥下さい。ご不要の方は、お手数ですが
その旨ご一報下さい。送信リストから外します。

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僕の仕事
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原稿を読む。
読むことが僕の仕事だ。毎日それが続く。
良い原稿を読むと楽しい。
つまらないものは、つまらない。
下らない原稿は放り出す。

くさくさすると、良い本を読みたくなる。
好きな本に手を伸ばす。
この半年ほど、ヘッセを集中して読んだ。
北方謙三の『史記』全7巻は、息もつかずに読んだ。
『工作舎物語ーー 眠りたくなかった時代』(臼田 捷治著)、
『神さまがくれたひとすじの道』(いんやく りお著)、
おもしろかった。

でも最近は、読める本が少なくなった。
新しい世代のものがつまらなくなったと感じることが多い。
ふと、放っていた「ローマ帝国興亡史」を読もうと思った。
良い本は、頭の中の汚れを洗い流してくれる。
生きる元気をくれる。

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『65点の君が好き』という小学校の先生の本
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風雲舎の新刊『65点の君が好き』(加藤久雄著)は、
(ちょっと手前味噌だが)これはおもしろかった。
加藤さんという小学校の先生の教育日記。
加藤先生は保江邦夫さんの愛弟子。
以前出版した保江先生の『人を見たら神様と思え』で知り合って、
仲良くなった。

加藤先生は、こんな先生だ。
・生まれつきの弱虫。争ったり、競ったりするのが大嫌い。
・好きなのは、自然の中、そして子どもといること。
・でも、もっと強くなろうと、アフリカ、アマゾンを歩いた。
・そうして念願の先生になった。
・上手な先生になるのは難しい。下手な先生からスタートした。
・弱虫の目で見ると、子どもの様子がよく見えた。
・子ども達と仲良くなった。
・武道を学び、樹医とセラピストの資格を取った。
・弱虫先生は、だんだん弱虫ではなくなった。
・「どんぐり亭」という自然学舎を創り、不登校の子や親たちと一緒に学んだ。
・子ども達には、いつもこんな風にささやいている、
「誰かと競争するんじゃなく、ずっと自分の ”大好き”を深めていくんだよ」

この先生と話していると。時間があっという間に過ぎていく。
子どもの話、山や森や自然のこと、師匠の保江邦夫さんのことになると、
先生は時間を忘れたように夢中になってしゃべる。
自分の“大好き”をずっと深めていったような、まじりっ気のない人。

いつか、先生の聖地を訪ねたことがある。
高崎の奥のまた奥、車で2時間ほどの高地にある山小屋。
冬場は雪で交通が途絶する。
あたりには人っ子一人いない。
目の前に浅間が見える。ずっと向こうに南アルプスの甲斐駒を望むことができる。
広い雑木林の中にポツンと立っている山小屋、
ここが、自然が大好きな先生の聖地「どんぐり亭」。
先生は、ここで不登校の子らや親たちをカウンセリングする。

そういえば、加藤先生の名文がある。
「自然の中で暮らしたい、そこで人と向き合いたい、そんな思いから
作った森の中の小屋があります。それを僕と嫁さんは「どんぐり亭」
と名付けました。
蛍が飛ぶ速度、桜が舞い散る速度、牡丹雪が舞う速度は、いずれも
秒速五〇センチです。これはさだまさしさんに教えられた言葉です。
そしてそれは日本人が大好きな速度です。このどんぐり亭を作るとき、
そこに流れる時間はこの秒速五〇センチにしたいと思いました。
コーヒーを淹れるときは豆をゆっくり挽(ひ)いて、薪でお湯を沸かし、
石窯でピザを焼く。そうすると、食べ物の中にもその時間が折り込ま
れていきます。生きているというのは時間を使っていくことです。
いつも急いでいると、心がすさんでいきます。だから自分の時間を
使ってコーヒーを淹れ、ピザを焼き、ここを訪ねてきた人に差し上げる
というのが、今の僕たちの活人術です。風が、森がつくってくれる時間を
ここで生きるのがテーマです。
このどんぐり亭で、不登校になって学校に行けない子供たちや親御
さんのカウンセリングをしています。また子供を森に連れ出して、
一緒に歩きながらカウンセリングすることもあります。お母さんは
お母さんでつらい思いをしています。コーヒーをどうぞと差し出すと、
ひと口飲んだ途端、ワーと泣きだすこともあります。
鳥が鳴いていて、僕らの話を森が聞いている、
そういう空気が大切だと思っています。
保江先生に教えてもらったことは、僕の中では芯みたいなものにな
っています。それには自分のことを考えてやるのではなくて、ただ相手
に尽くす。相手に寄りそう、そこにただいるということは、カウンセ
リングにはとても大事なことです。カウンセリングは相手が心を開い
てくれないと始まりません。そのためにこちらの心をまず開いている
必要があります。そしてゆっくりと調和していくのです。
窓からはコナラのどんぐりと、かすみ桜の連理(れんり)木(ぼく)が見えます。
連理木というのは、こちらの木の枝がほかの木の枝とひとつに結合
している木のことです。
保江先生の活人術は「小ぬか雨になれ」です。
差し出がましくせず、そっとそこにいるだけ、そこに在るだけです。
音もなく、相手に気づかれず、天の恵みを注ぎ、森を育てるのです。
イエス・キリストはそういう人だったそうです。女郎屋の人の列に
延々と並び、自分の番がくると、またいちばん最後に並び直す。
だまってそこにいるだけで、欲にかられた人の魂を救おうとしました。
僕はそれと同じことはできないにせよ、それを目指していくことは
できます。保江先生はその境地にたどり着こうとしているのだと思い
ます。さりげなく、押しつけがましくない、小ぬか雨のように。
(「どんぐり亭に流れる時間は秒速五〇センチ」『人を見たら神様と思え』より)

「ガキの頃、こういう先生に出会えたら良かったな……」
僕はつくづくそう思った。
この本は1月末に本屋さんの店頭に出ています。
よろしければ手に取ってください。

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並木さんの本
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お待たせしました。
やっと並木さんの校了を終えました。
いま校正マンが入り、編集中です
2月末か3月初めには出ます。
これまでご注文いただいた方には、出来次第お送りいたします。
どうぞよろしく。

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ちょっと頑張ってどんどん本を出します
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いま仕事一筋。
ゴルフはなし。マージャンもやめ、好きな碁も遠くなった。
飲み屋を放浪することもなくなり、仕事がおもしろくなった。
おもしろくなると、良い原稿が入ってくる。
愚痴も悪態をつくのもめっきり減った。
これはいいことだと思っている。

以下の本が続きます。
『アスペルガー讃歌』(吉濱勉著)
『口から出任せ対談 ー 言霊から音霊へ』(保江邦夫VS山本光輝著)
『65歳からの空手入門ーーそうか身体は頭より賢いんだ』(大坪英臣著)
などなどです。どうぞよろしく。風雲斎  (今号終わり)