「みやざき中央新聞」社説11月2日号より

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眠っている遺伝子をオンにしてみよう

            (「みやざき中央新聞」編集長)水谷護人

 

「なんでこがんなるまでほたっておいたんだ!」

平成18年5月1日、工藤房美さんは熊本市民病院の医者から怒鳴られた。

末期のがんだった。48歳。家には心を病んでいる夫と高校3年をかしらに3人の息子がいた。

検査に2週間かかり、明日はいよいよ手術という日、主治医が言った。「がんが広がり過ぎていて手術ができません」。あまりのショックで涙も出なかった。帰宅して3人の息子たちに遺書を書いた。

長男には「あなたを誇りに思う。これからも堂々と自分の好きなことをやりなさい。病気になってごめんね。大好きだよ」

高の次男には「楽しいことを見つけることが得意だから好きなことを見つけて楽しんで生きて……」

小の三男には「大変なときは我慢しないで周りの大人の人に助けてもらいなさい。お兄ちゃんたちと3人で協力したらなんでもできるよ…」

「愛している」「あなたたちの母親になれてよかった」「あなたたちを最後まで愛し抜く」ことを精一杯伝えた。

 

扁平(へんぺい)上皮(じょうひ)がんという、内部が空洞になっている臓器の粘膜に発生するがんだった。主治医から「ラルス」と呼ばれる治療法を告げられた。「痛くて苦しい治療です。これを3回します」と。

治療の日、看護師から、「痛み止めの麻酔も使いません。タオルを口に入れます。耐えるしかありません」と説明を受けた。その後、1時間かけて器具が取り付けられた。体が固定され1ミリも動けなくなったところで、口にタオルが入れられた。

それは痛いとか苦しいというものではなかった。1時間、手が動かせないのであふれる涙も拭えない。口が塞がれてて悲鳴も上げられない。「治療ではなく拷問だ」と思った。

その夜、「なんでがんになったんだろう」と自分を責めた。がんを告知されたときは出なかった涙が一晩中枕を濡らした。

 

2回目の治療の前日、三男の小学校の先生から一冊の本が届けられた。筑波大学で長年遺伝子の研究をしてこられた村上和雄先生の『生命の暗号』という本だった。

最初はうつろな目でページを開いていたが、しだいにその目が大きく開いていった。胸の鼓動が高鳴った。読み終えたのは夜中の2時だった。

「人間には約60兆個の細胞があり、その一つ一つに遺伝子があって、一つの遺伝子には30億もの情報が書き込まれている。ところが人間の遺伝子のうち実際に働いているのは全体のわずか5%に過ぎない」というようなことが書かれてあった。

「眠っている95%の遺伝子を少しでもオンにすることができれば元気になるのではないか」、そう思ったら、ワクワクしてきた。大声で「ばんざーい」と何度も叫んだ。

 

工藤さんは決心した。「私の命はもう長くないかもしれないけど、今まで私を支えてくれた一つ一つの細胞と遺伝子にありがとうを言ってから死のう」と。

まず目や耳、手足、心臓、胃など、健康なところに「今までありがとう」とお礼を言った。抜けていく10万本の髪の毛一本一本にも「ありがとう」を言った。闘病生活は「ありがとう」を言う生活に変わった。

さらに患部のガン細胞にまでお礼を言いたくなった。「正常な細胞だったのに私の思考の癖や歪んだ生活を教えてくれるためにがん細胞になってごめんなさい」と。

 

詳細は今月末に発刊される工藤房美著『遺伝子スイッチ・オンの奇跡』をお読みいただくとして、「余命一カ月」と宣告されていた工藤さんはその後どうなったか。

がん告知から10カ月後、子宮と肺、肝臓にあったがんはきれいに消えてしまった。いま工藤さんは熊本市内で「ロータス」というカレー専門店を経営している。

 

著書の中で工藤さんは「良い遺伝子をオンにするコツ」をまとめている。①どんなときも明るく前向きに考える②思いきって今までの環境を変えてみる③人との出会い、機会との遭遇を大切にする④感動する。笑う。ワクワクする⑤感謝する⑥世のため人のためを考えて生きる。

(「みやざき中央新聞」社説11月2日号より)

 

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